はじめに¶
2023年3月、日本の新型主力ロケット「H3」の試作1号機の打ち上げが予定されていました。この歴史的瞬間を目の当たりにしたいという思いから、種子島への旅を計画しました。当初3月10日に予定されていた打ち上げは延期となりましたが、3月6日に新しい日程が発表され、急遽現地に向かうことになりました。
種子島への道のり¶
3月5日早朝6時42分、飛行機の窓から見えた種子島の風景です。心臓の描かれた翼が印象的なJALの機体から撮影したもので、これから始まる冒険への期待を高めてくれました。
種子島への移動には様々なルートがありますが、この写真は3月5日昼頃に撮影したフェリーターミナルの様子です。青い屋根の建物と白い高速フェリーが印象的で、種子島への玄関口としての役割を果たしています。
写真に写っているのは、鹿児島と種子島・屋久島を結ぶ高速船「トッピー」です。「トッピー」は鹿児島弁で「トビウオ」を意味し、時速約80kmで航行するボーイング929ジェットフォイル船。鹿児島新港から種子島西之表港まで約1時間半で結ぶ重要な交通手段として、地元住民や観光客に親しまれています。
種子島での準備¶
交通手段の確保は大きな課題でした。レンタカーやタクシーの手配が困難な中、最終的にスクーターをレンタルすることで移動手段を確保することができました。
3月6日に撮影した種子島名物の「ロケットカレー」です。白米をロケットの形に盛り付け、半熟卵やコーンがトッピングされたユニークな一皿。打ち上げを控えた種子島らしい、心温まるおもてなしの一つでした。
JAXA施設見学¶
3月7日には、JAXA種子島宇宙センターの施設見学を行いました。実際のロケット製造や打ち上げ準備の現場を間近で見ることができ、日本の宇宙開発技術の高さを実感しました。
H3ロケット打ち上げ当日¶
打ち上げの様子を動画でもご覧いただけます。
そしてついに迎えた2023年3月7日10時38分。H3ロケット試作1号機が打ち上げられる瞬間を捉えた写真です。山の向こうに立つロケットから巨大な白煙が立ち上り、打ち上げの始まりを告げています。
打ち上げは計画通りに始まりました。ロケットは力強く空に向かって上昇し、見応えのある光景を見せてくれました。しかし、残念ながら2段目エンジンが点火せず、最終的には指令破壊という結果となりました。
振り返りと感想¶
H3ロケット試作1号機の打ち上げは技術的には成功とは言えない結果となりましたが、この瞬間を目の当たりにできたことは、印象に残る体験となりました。
宇宙開発には常に困難が伴います。僕も一人のEngineerとして技術者たちの挑戦と努力には深い敬意を感じます。
種子島での数日間は、日本の宇宙開発の現場を間近で見ることができただけでなく、地域の温かいもてなしや美しい自然にも触れることができました。今後のH3ロケットの成功を心から願っています。
付録:H3ロケット試験機1号機 失敗原因の詳細調査結果¶
失敗の概要¶
2023年3月7日10時51分50秒、H3ロケット試験機1号機は第2段エンジン(LE-5B-3)の点火に失敗し、指令破壊により打ち上げが失敗しました。搭載されていた先進レーダ衛星「だいち3号」(ALOS-3)も失われる結果となりました。
JAXA公式調査結果(2023年10月26日発表)¶
JAXAのH3ロケット試験機1号機対策本部による調査報告書によると、失敗の直接的原因は「第2段エンジン制御系における過電流の発生」でした。
技術的な失敗メカニズム¶
調査により、過電流が発生した可能性のある箇所が以下の3つに特定されました:
- エンジン着火装置(イグナイタ)の短絡
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エンジン点火システム内の電気回路で短絡が発生
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機器通電時の過電流
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エンジン励磁器の電源投入時にトランジスタが損傷し過電流が発生
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推進系制御装置(PSC2)内の回路異常
- 定電圧ダイオードの不具合により制御回路に過電流が流れ、バックアップ回路にも波及
文部科学省による背景分析(2023年10月発表)¶
文科省の分析では、技術的失敗の背景として以下の問題が指摘されました:
システム的な課題¶
- 過度な実績依存:H-IIロケット時代からの機器性能への過信
- 製造後評価の不足:機器の製造後の状態評価が不十分
- 適合性評価の甘さ:既存技術転用時の互換性検証不足
- 異常時対応の検証不足:非正常条件下での部品耐性評価が不十分
対策と改善措置¶
技術的対策¶
- 点火装置部品の絶縁強化と検査徹底
- 電気部品の電圧仕様内での慎重な選定
- 不要な定電圧ダイオードなどの回路部品除去
- 回路抵抗の調整によるトランジスタ電圧の定格内制御
組織的改革¶
- 管理改革検討委員会の設置
- 理事長主導による組織改革の実施
- 知識と経験の継承システム強化
情報源¶
- JAXA H3ロケット試験機1号機対策本部報告書(2023年10月26日)
- 文部科学省 宇宙開発利用部会調査・安全小委員会報告(2023年10月)
- 日経クロステック技術解説記事
- 科学技術振興機構 サイエンスポータル
この詳細な調査結果は、後のH3ロケット試験機2号機(2024年2月17日)の成功につながる重要な知見となりました。
おわりに¶
打ち上げの結果は期待通りではありませんでしたが、この経験を通じて宇宙開発の困難さと、それに挑戦する人々の情熱を深く理解することができました。その後の詳細な原因究明と対策により、H3ロケットは確実に前進を続けています。種子島への旅は、技術と自然、そして人々の温かさに触れる素晴らしい機会となりました。