山の中に、渓谷があるらしい¶
昨日は、ダランザドガドの車屋で結局見てもらえないまま宿に入りました。
とはいえ、心配していたわけではありません。空気圧が少し気になる、くらいのものです。
今日はヨリーン・アム渓谷を歩いて、そのままホンゴル砂丘まで走ります。
朝のゴビ・オアシスです。空に薄い雲が刷毛で掃いたように広がっています。
走り出すと、周りはもう荒野です。それでも牛や羊や馬が、そこらじゅうにいます。
そして遠くに、山の壁が見えてきます。
道はダートに変わります。前をバイクが一台走っています。
黒い岩肌に緑が張りついた斜面です。その裾に馬が散って、それぞれ勝手な方向を向いたまま草を食んでいます。
山の中へ入っていきます。ヨリーン・アム渓谷は、この奥にあるようです。
プージェさんは細い道が好きです。もっと広い道もあったはずですが、こういう方を選びます。僕はそれがいいと思っています。
ヒゲワシの谷¶
渓谷の入口に着きました。坊主頭の子どもが、こちらへ全力で走ってきます。
渓谷は馬で行くこともできるようです。僕は歩いて行きます。
その馬が、ロープに沿ってずらりと並んでいます。手前にはバイクも停まっています。
歩き始めます。
両側から山が迫り、その切れ目に太陽が引っかかっています。谷はまっすぐ光のほうへ伸びていて、進む先だけが白く飛んでいます。
細い川が流れています。その川に沿って、馬の群れが向こうから下りてきます。
一頭が近くで立ち止まりました。
そのまま草を食べ始めます。逃げる気配はありません。
川は浅いので、少し渡ってみます。谷はまだ広く、両側の山だけが高くなっていきます。
何かの角が落ちています。骨の一部がついたままです。
拾ったときは何の角か分かりませんでした。キョンのようなものだろうか、と思っていました。後で調べると、この谷にいるアイベックスのものらしいです。
見上げると、岩峰の上を鳥が舞っています。数えきれません。
ヒゲワシです。この渓谷にはたくさんいるようです。
というより、この谷の名前そのものがヒゲワシでした。ヨリーン・アム。「ヨル」はモンゴル語でヒゲワシのことだそうです。名前のとおりの場所でした。
こうなると、レンズが足りません。600ミリは要ります。悔しいところです。
谷はここから急に狭くなります。両側が垂直の岩壁になって、空が細く切り取られます。
ここまで来ると、人の姿がずいぶん小さく見えます。
ドローンを上げてみました。褐色の山のあいだを、白い筋が奥へ伸びています。
これは車で入ってきた道です。渓谷が始まるのはこの先で、ここから下へ切れ込んでいきます。
ナキウサギ¶
最初はネズミかと思いました。よく見ると、うさぎのようです。
これはナキウサギでした。ウサギ目なので、うさぎっぽく見えたのは間違いではありません。ヨリーン・アムはナキウサギが多いことでも知られています。
馬の一団とすれ違います。
バイクも下りてきます。
奥へ行くほど川は細くなり、しまいに、これ以上は進めないという感じになりました。
スニーカーで来たのが失敗でした。登山靴で来るべきです。
谷を出る¶
谷を出ました。崖の上の草地に、羊とヤギがびっしり並んでいます。
次に目指すのはホンゴル砂丘です。僕はこれを楽しみにしていました。
車が3台、その下に停めてあります。
また舗装路に戻りました。地平線の手前に、青い山脈が横たわっています。
ハンドルを握るプージェさんです。ダッシュボードの時計は5時21分で止まったままです。
村で食事¶
途中の村で昼にしました。瓶から出した野菜のサラダです。瓶詰めですが、これがおいしかったです。
羊肉を包んで蒸したボーズです。私には餃子に見えるのですが、ボーズです。
羊の匂いがはっきりして、癖はあります。
また荒野¶
外はまた荒野です。遠くにラクダが見えます。
道はどこまでもまっすぐです。
ドローンを上げると、砂色の平原に家畜の群れが点のように散らばっています。ドローンで遊牧民ごっこですね。
近くにも来ます。こぶが二つ、はっきり立っています。平らなだけの地面に、ラクダの影だけが落ちています。
何もない場所に車を停めて、しばらく撮りました。
轍が一本、地平線へ向かって曲がっていきます。
途中、家畜に水を飲ませる井戸を見学しました。水が溜まっているみたい。
いい道と、パンク¶
ホンゴル砂丘へ向かう道が険しくなってきました。
プージェさんが選んだのはこの道です。
岩の柱を回り込むように、道がヘアピンで折り返しています。
上から見ると、こんなところを走っています。かなり良い道です。
ただ、あまり車が通らない道でもありました。
パンクしました。
タイヤを外して、僕も手伝って直します。荒野のど真ん中です。こういうアクシデントは大変おもしろいですね。しかもこの場合ガイドさんがなんとかするのを見守りだけなので気楽です。自分だけだったらどうしようって思うところですが、なんとかするでしょうと、他人事です。おもしろい!
直して走り出すと、岩山の裾に家畜の大群がいます。
砂丘が見えた¶
これです。
地平線の手前に、白っぽい帯が横たわっています。砂丘です。
これはすごく感動しました。
なんというか、アニメで見たような気がする光景です。荒野の先に砂の山脈があります。それだけのことなのですが、とてもかっこよかったです。
轍の先に、砂の起伏が続いています。
麓まで来ました。車が小さく見えます。
砂丘の上から¶
砂丘の上を歩きたくなって、もう少し寄ってから登りました。
風が強くて、砂が飛んでいます。
真上から見ると、砂の表面が細かく波打っています。
稜線が刃物のように伸びています。
足跡はしばらくは残っています。あしたになったら風でなくなるのでしょうか。
砂丘の向こうには、また褐色の山脈があります。
反対側は平原です。砂はここで終わっています。
稜線に沿って、細い足跡の列が続いています。この向かいの山がホンゴル砂丘を作ったようです。風の流れでできるとかなんとか。
落ちました。
自動追尾で僕を追わせていたのですが、追いかけてくる途中で斜面に接触したようです。
拾ってみると、砂が入った程度でした。きれいに掃除したら、また飛ぶようになりました。
ラクダの列¶
砂丘の手前は草地で、そこにラクダが放してあります。
砂の壁が、車の窓いっぱいに広がります。
ラクダの列が、砂丘の裾を横切っていきます。上の斜面には、豆粒のような人影が点々と見えます。
緑と砂が、線を引いたように分かれています。
乗る人と、引く人と、待つ人。砂丘を背にして、順番がゆっくり回っていきます。
待っているラクダは座り込んでいます。鞍に絨毯が敷いてあります。
ラクダに乗る¶
乗りました。
昨日は歩いて近づくと逃げられたのに、今日は背中に乗っています。
上から言うと、乗り心地は良いものではありません。揺れをひたすら耐える乗り物です。
それでも、目線が高いのはいいものです。
キャラバンが、砂丘の斜面を伝っていきます。
日が傾いて、ラクダの毛が赤く光りはじめました。なんか可愛いような可愛くないような。見慣れると愛着がでるのでしょうか。
引き連れていた方は、言うことを聞かないラクダを叩いていました。でもちょっと叩きたくなる顔です。なんなんだろう。
車が動かない¶
駐車場に戻りました。
車のエンジンがかかりません。セルは回るのに、点火しない感じです。燃料切れのような挙動なのですが、ゲージを見ると半分入っています。さっぱり分かりません。
ここで新ズーチトラベルのチームプレイです。この砂丘にも同じ会社の方が何人も来ていて、とりあえず別の車でゲルまで送ってもらいます。
直るのかどうかは分かりませんが、少し楽しみでもあります。
旅でトラブルが起こると、僕はどこか楽しくなってしまいます。
今のところ命に関わるようなことは起きていませんし、今回は新ズーチさんがなんとかしてくれそうな気がしているので、気楽なものです。
ツーリストゲル¶
今日の宿はツーリストゲルです。デラックスではありません。シャワーもトイレも共同です。
これでいいと思います。
夕飯は肉と野菜の炒めもの、ライス付きでした。
この日は雲が出ていて、星はまったく見えませんでした。おかげで早く寝られます。
3日目を終えて¶
- ヨリーン・アムは「ヒゲワシの谷」の意味です。名前のとおり、岩峰の上を何十羽も舞っています
- 渓谷は馬でも歩きでも行けます。奥は川沿いの砂利道なので、歩くなら登山靴です
- 猛禽を狙うなら600ミリ級のレンズが必要です。持っていきませんでした
- ホンゴル砂丘への山越えは景色が良い代わりに、車の通りが少ない道です。パンクしました
- ゴビの旅は密度が高くて、正直かなり疲れます
車は動きません。
明日どうなるのか、それだけが分からないまま寝ました。
この旅の記事シリーズ¶
モンゴル 8日間の旅(2026年8月9日〜16日)
- Day 1: モンゴル テレルジ国立公園 - 仁川経由のゲル泊と、ガソリンのない首都
- Day 2: ゴビ砂漠へ - ツァガーン・スワルガの断崖と、ゲルに降る天の川
- Day 3: ヨリーン・アム渓谷とホンゴル砂丘 - ヒゲワシの谷と、動かなくなった車
- Day 4: バヤンザグ - 恐竜の卵が見つかった崖と、直らない車
- Day 5: ゴビからウランバートルへ - 廃墟に散らばる骨と、700キロの帰り道
- Day 6: セミゴビからカラコルムへ - 廃墟で涼む馬と、ゲルの上の天の川
- Day 7: モンゴル最終日 - 草原を自転車で走り、最後まで羊でした