直行便がないので、仁川へ¶
モンゴルに行くことにしました。
僕の中のモンゴルは、騎馬の軍隊です。定住しない帝国。あとは「スーホの白い馬」。それくらいのイメージしか持っていませんでした。
中部国際空港からウランバートルへの直行便はありません。というより、日本からの直行便自体がないようです。今回は仁川経由で入ります。
日程は新ズーチトラベルという現地の旅行会社に丸投げしました。日本語で相談できるモンゴル専門の会社です。おかげで自分ではほとんど下調べをしていません。
届いた行程表を見て、少し引っかかりました。ウランバートル到着は現地時間で22時ごろ。そのうえ、その日のうちにテレルジ国立公園まで移動してゲルに泊まる、と書いてあります。
夜に着いて、そこからさらに知らない土地を車で走る。大丈夫だろうか、というのが出発前の一番の気がかりでした。
搭乗までまだ時間があります。ガラス一枚向こうは滑走路。ここから先は、行ったことのない国です。
着陸前、翼の下に仁川空港が広がります。3km級の滑走路が4本、埋め立てた島に平行して伸びています。かなり大きな空港です。
仁川のトランスファーが好きです¶
仁川は乗り継ぎがとてもよくできています。
前にラスベガスへ行ったときも仁川経由でした。
まずは腹ごしらえです。タッチパネルの前に列ができています。
出てきたのは真っ赤な麺でした。乗り継ぎの合間にこれが食べられるのは、ありがたいところです。
ダンキンドーナツがあるのもいいですね。天井のガラスから光が落ちていて、空港の中とは思えない明るさです。
これは初めて見ました。ボストンダイナミクスの犬型ロボットです。
「Incheon Airport」と書いてあるので空港の何かなのでしょうが、何に使われるのかはよくわかりません。置物のように座り込んだまま、動きません。
242番ゲート、20時20分発、ウランバートル行き。ここまで来たら、あとは乗るだけです。
深夜のウランバートル¶
ウランバートルに着きました。到着ロビーにはSIMカウンターと両替所が並んでいます。
心配していた夜着でしたが、ガイドさんとは無事に合流できました。
カートを押しているのが、ガイドのプージェさんです。奥には韓国系のコンビニ「CU」がそのまま入っています。
外に出ると、あたりは真っ暗です。プージェさんの後について横断歩道を渡ります。
「TOGETHER TOWARDS PROSPERITY」。新しくてきれいなターミナルです。ここから車でテレルジ国立公園へ向かいます。
途中で寄ったコンビニです。GS25とCUが並んでいます。路面が濡れていて、少し前まで降っていたようです。
ゲルに着いたのは、日付が変わってからでした。
見上げると天窓があって、骨組みが放射状に伸びています。壁にあるのは扇風機です。8月のモンゴルは、夜でも寒くありません。
テレルジの朝¶
朝、外に出て驚きました。
昨夜は真っ暗で何も見えなかった場所が、こんな景色だったのです。丘の向こうから日が昇り、白いゲルが草の上に点々と並んでいます。
ゲルとゲルのあいだに、木道が一本渡してあります。朝の光が低くて、板の影が地面に長く伸びています。
朝食はビュッフェでした。壁にニューヨークやロンドンの標識風のプレートが掛かっていて、草原のど真ん中にいることを一瞬忘れます。
牛も馬も、その辺にいます¶
出発してすぐ、丘の下を馬の群れが横切っていきます。追っているのは馬に乗った人です。すぐ横を観光バスが走っています。
道はところどころで舗装が切れます。ルーフボックスを積んだ車が、土埃を上げて登っていきます。
テレルジ国立公園です。緑の斜面から、丸みを帯びた巨大な岩がいくつも突き出しています。
真ん中の大きなものは、亀岩だと思います。テレルジで一番知られている岩で、角度が合うと亀が首を伸ばしたように見えるそうです。ここからだと、その形はよくわかりません。
アリヤバル寺院¶
谷の向かいの斜面に寺院が見えます。アリヤバル寺院です。細長い階段が真っ直ぐ伸びていて、豆粒のような人影が登っていきます。
この階段は象の鼻を模したもので、108段あるそうです。本殿が象の頭、両脇の小さなお堂が耳にあたります。遠くから見ると、全体で一頭の象になっているのだとか。
もちろん登りました。象の鼻を根元から頭まで、108段。正直、ちょっと疲れました。
中は赤と青と金の極彩色です。柱も天井も、隙間なく塗り分けられています。木の色が沈んでいて、ずいぶん古い寺だと思いました。
後で調べたら、創建は1810年代でした。ただし、その建物はもう残っていません。1930年代の宗教弾圧で壊され、僧侶も殺されています。再建に取りかかったのは2000年になってからで、いま建っているのは20年ほど前に完成したものです。
仏教なのですね。騎馬と草原の国だと思っていたので、これは意外でした。無数の手が背後に広がっています。
回廊に沿ってマニ車が並んでいます。歩きながら、片手で順に回していきます。
牛と、鷲¶
柵の前で牛が三頭、重なるようにして寝ています。放し飼いなのでしょう、道でも普通にすれ違います。もの珍しくて、つい足が止まりました。もっとも、この先の旅では牛も羊もラクダもそのへんをうろうろしていて、じきに珍しくなくなります。
街道沿いに、鷲を持たせてくれるところがありました。
革の手袋をはめて腕を差し出すと、係の人が、脚に紐をつないだ鷲を乗せてくれます。結構重たいです。
風の来る方に腕を向けて上下に動かすと、鷲が羽ばたきます。これがなかなか様になるのです。
ドローンを上げてみました。谷底にゲルが密集しているのがわかります。岩の尾根が、背骨のように山を走っています。
遊牧民のゲルにお邪魔する¶
お昼どき、遊牧民のお宅にお邪魔しました。
中にはテレビがあって、棚には家族の写真が飾ってあります。象の刺繍が入ったソファ。テーブルの皿に盛ってあるのは、揚げパンだとおもうのですが、味があんまりなくてよくわかりませんでした。
出していただいたのは、うどんのような麺の入った汁物と、揚げパン、それに乾いた乳製品でした。
外では子どもが裸足で駆け回っています。ゲルの隣にはレンガの家とトタンの小屋があり、その奥の丘には大きな岩が突き出しています。
プージェさんの馬¶
乗馬をしました。といっても、引いてもらってゆっくり歩く程度です。
そのあと、プージェさんが僕の乗っていた馬にひらりとまたがりました。
彼は遊牧民の出身だそうです。
馬が突然走り出しました。
さっきまでのんびり歩いていた、同じ馬です。プージェさんが乗った途端、別の生き物のように言うことを聞いています。
ものすごくかっこよかったです。僕もあんな風に乗れたらいいのですが。
ガソリンがありません¶
ウランバートルへ戻る道すがら、車の長い列を見かけました。給油待ちです。
モンゴルではいま、ガソリンが足りていません。
原油そのものは産出します。ただ精製する施設を持っていないので、燃料はロシアからの輸入に頼っています。そのロシアの製油施設が、ウクライナの攻撃を受けています。戦争の影響が、こんなところまで届いているわけです。
カザフ民族のゲル¶
午後は、カザフ民族のゲルに案内していただきました。
迎えてくださったのは、白い縁なし帽をかぶったおじいさんです。
中に入って、朝まで泊まっていたゲルとは別物だと気づきました。
オレンジ、緑、赤。壁も天井も、刺繍とフェルトで埋め尽くされています。モンゴルというより、中東か東欧のような香りがします。同じゲルでも、住む人が違うとここまで変わるものなのですね。
お茶と揚げ菓子、乾いた乳製品、ナッツ。素朴なものばかりです。
フェルトのブーツ、木をくり抜いた器、馬の毛を編んだ鞭。並べて見せてくださいました。
ザイサンの丘から¶
市街地が近づくと、板塀に囲まれた敷地の中にゲルが建っている一帯が現れます。屋根のある家とゲルが、垣根なしに混ざっています。
ザイサンの丘は、プージェさんにリクエストして連れて行ってもらいました。煙となんとやらで、高いところが好きなのです。
眼下に団地とマンションが詰まっていて、その先はもう緑の山です。
ソ連時代の記念碑です。円形の壁に星章とモザイク画が並び、縁には鳩がびっしり止まっています。若い人たちが記念写真を撮っています。
ウランバートルは思っていたより都会でした。ただ、街そのものは大きくありません。
人口を調べてみたら、約170万人でした。モンゴル全体で360万人ほどですから、国民のほぼ半分がこの街に集まっている計算になります。街が小さいのに人が多い理由は、そういうことでした。
高層マンションの足元に、ゲルが一つ建っています。左手には金色の仏像。この混ざり方が、この街です。
夜のウランバートル¶
テレルジから戻って、この日の宿に入りました。
夕飯は近くのスーパーで。青果売り場にスイカが山積みで、りんごの赤が濃いです。
その帰り、また給油の列に出くわしました。日が落ちてもまだ並んでいます。
食事はスーパーに入っている食堂でいただきました。パンとサラダに、玉ねぎを載せた肉。ボウルの雑穀と合わせて食べます。結構おいしかったです。
外に出ると、空にはまだ青みが残っています。歩道には電動キックボードがずらりと並び、路線バスがライトを灯して走っていきます。ガソリンの話を聞いた後だと、この電動の列が少し違って見えました。
1日目を終えて¶
- 日本からモンゴルへの直行便はなく、今回は中部国際空港から仁川経由で入りました
- ウランバートル着は現地22時過ぎ。夜着でも空港に両替とSIMのカウンターがあり、困りませんでした
- 日程は新ズーチトラベル(日本語で相談できるモンゴル現地の旅行会社)に丸投げしました。深夜にテレルジまで移動する行程は出発前に不安でしたが、ガイドさんの出迎えと車が付いていて、何も困りませんでした
- 8月のテレルジは、夜でも寒くありません。ゲルにあったのはストーブではなく扇風機でした
- ガソリン不足は現在進行形です。車での移動が前提の旅なので、行程には余裕を見ておいた方がよさそうです
初日からずいぶん盛りだくさんでした。
心残りは一つだけです。プージェさんの馬の走り。あの乗り方を、いつかやってみたいと思います。
この旅の記事シリーズ¶
モンゴル 8日間の旅(2026年8月9日〜16日)
- Day 1: モンゴル テレルジ国立公園 - 仁川経由のゲル泊と、ガソリンのない首都
- Day 2: ゴビ砂漠へ - ツァガーン・スワルガの断崖と、ゲルに降る天の川
- Day 3: ヨリーン・アム渓谷とホンゴル砂丘 - ヒゲワシの谷と、動かなくなった車
- Day 4: バヤンザグ - 恐竜の卵が見つかった崖と、直らない車
- Day 5: ゴビからウランバートルへ - 廃墟に散らばる骨と、700キロの帰り道
- Day 6: セミゴビからカラコルムへ - 廃墟で涼む馬と、ゲルの上の天の川
- Day 7: モンゴル最終日 - 草原を自転車で走り、最後まで羊でした