最後の朝です

夜明けのゲルキャンプ、雲の切れ間だけが焼けている

6時過ぎ。厚い雲が空の半分を押さえていて、その下の隙間だけがオレンジに焼けています。ゲルの列はまだ影のままです。
モンゴルの旅も、今日で終わりです。

朝のゲルキャンプ全景、物見台にモンゴル国旗

7時を回る頃には、雲は高いところへ抜けました。白いゲルが草原に点々と並んでいて、右手の物見台に国旗が揚がっています。
今日やることは、昨日から決まっています。

自転車が来ました

建物の脇に停められた自転車二台

ガイドさんにずっとリクエストしていた自転車が、ようやく用意されました。
このキャンプの管理人さんの私物だそうです。オレンジと白の二台。
変速はうまく決まらず、ブレーキも怪しいところがあります。まあまあ、いいでしょう。走れれば十分です。

草原へ出ます

草原を走る馬の群れと、それを追う自転車

またがって漕ぎ出すと、いきなり馬の群れが横切っていきました。
慌てて追いかけます。舗装も柵もありません。行きたい方向へまっすぐ進めます。

青空の下、白い自転車と遠くの馬の群れ

草原を自転車で走るのは、非常に面白いです。
地面は見た目より凸凹していて、株や轍にハンドルを取られます。その凸凹をむしろ楽しんでいます。少年の頃、家の裏の空き地を走り回っていたときの感じに近いです。

羊を追い込みます

馬上の遊牧民二人が竿でヤギと羊の群れを追う

遠くで遊牧民の方が群れを動かしています。馬に乗った二人が、長い竿を振って側面から押さえています。
邪魔になるかもしれないと思いながら、私もちょっと手伝ってみました。

柵に追い込まれてぎっしり詰まったヤギと羊

群れが柵の中に収まりました。白、黒、茶色。角のあるヤギとないヤギが混ざって、身動きが取れないほど詰まっています。
一緒に来ている友人はうまく追い込めたようで、遊牧民の方からグッドサインをもらっています。

赤いデールを着た遊牧民と、寝そべる犬

仕事が一段落した男性が、こちらを向いて立っています。赤いデールに黒いブーツ。足元に犬が伏せています。
後ろの草原には、追い込みを免れた牛が数頭残っています。

砂丘まで走ります

ドローンから見た砂丘と、砂の上を歩く自分

草原の低いところに、砂の色をした丘が見えています。キャンプへ戻る前に、そこまで自転車で走ってみました。
ホンゴル砂丘に比べれば、ずっとちっちゃい丘です。それでも砂丘は砂丘で、稜線の上に木が数本並んでいるのが妙にきれいです。
上からも見たくなって、ドローンを上げました。表面には、車が走り回った跡がぐるぐる残っています。広い斜面に、豆粒みたいなのが一つだけ写っています。私です。

靴のこと

遠くのゲルキャンプへ向かって草原を走る自転車

キャンプへ戻ります。目印は白いゲルの列だけです。

ゲル二棟の宿舎前、自転車を押して戻る

1時間ほど走り回って、キャンプに戻りました。
ここで気づいたのですが、草原には羊と牛の糞が異常なほど落ちています。緑一面に見えていた地面は、実際には糞だらけです。
これは困ったな、と思いました。この日わりと新しいスニーカーを履いていて、そこへ牛のものを踏み抜きました。もうダメかもしれません。

タヒには届きません

水場に集まる馬と牛の大群

車で出発します。
途中の水たまりのようなところに、馬と牛が集まっています。数えるのをあきらめる数です。浅い水に脚を入れたまま、みんな動きません。

車窓から見た路肩、倒れている馬

路肩に、茶色い大きな塊が横たわっています。長い尾が伸びていて、牛ではなく馬のようです。はねられたのだと思います。すれ違う車は、速度を落とさずに通り過ぎていきます。
今日は本当はタヒを見に行く予定でした。野生の馬として唯一生き残った種で、いまは保護されています。ところがそこまでダートを2時間、往復で4時間かかると聞きました。最終日にそれはちょっと厳しいです。
代わりに、ガイドのナンザイさんの奥さんが別の案を出してくれました。郊外の寺院を回って、小さい山に登る、という案です。奥さんは公務員だそうで、階級を持っています。メジャーだと言うので、たぶん少佐です。
少佐がそう言うなら、それが今日の作戦です。

小さい山に登ります

石積みのオボーと、青いハダグ

小さい山、というより丘です。頂上に石が積まれていて、青や黄色のハダグが柱に巻きつけてあります。
オボーです。峠や丘の上に石を積んで、その土地の神を祀る場所です。後で調べたら、もとはシャーマニズムのもので、後からチベット仏教と混ざったとのことでした。通りかかった人は時計回りに三周して、石を一つ置いていきます。柱に巻かれた青は、空の色だそうです。
私も倣って三周しました。歩き出す前に、ナンザイさんが手のひらに穀物の粒を分けてくれます。麦だったと思います。回りながら、少しずつ撒いていきます。鳥が食べるのだそうです。
登り切ると、さっきまで走っていた平野が全部見えます。川が何本も蛇行していて、光が当たったところだけ白く光っています。

ドローンから見た岩の丘と、蛇行する川

上から見ると、この丘だけが平原にぽつんと突き出ているのが分かります。
道が十字に交わっていて、その真ん中の岩山です。高いところから風景を見るのは、やはり楽しいです。

サービスエリアのお昼

食堂のカウンターとキリル文字のメニュー看板

お昼は、日本でいうサービスエリアのような施設で食べました。
カウンターの上に写真付きのメニューが並んでいます。読めませんが、写真があるので指させば済みます。奥で厨房の人が動いていて、手前では先客が注文しています。

ご飯に肉炒めがかかった一皿

出てきたのはこれです。ご飯の横に、肉と野菜を炒めたものがたっぷりかかっています。
安心感のある味でした。旅の終盤にこういうものが出てくると、ありがたいです。

牧場でソフトクリーム

手に持ったソフトクリーム、背景は牧場の草原

午後、途中の牧場に寄ってソフトクリームを買いました。
柵の向こうは草原で、遠くになだらかな丘が並んでいます。牧場ですから、ここで搾った牛乳を使っているのでしょう。少し黄色みがかっています。
それでも、ソフトクリームはどこで食べても同じ味がします。それがいいのだと思います。

ガソリンとスーパー

ガソリンスタンドへ続く車の長い列

ウランバートルが近づくと、道の右側に車が延々と並んでいます。ガソリン待ちの列です。
初日にも同じ光景を見ました。1週間経っても状況は変わっていないようです。プリウスにセダンにワゴン。ルーフボックスを載せた車もいます。
戦争はむしろ深刻になる一方で、この列が短くなる見込みはなさそうです。
遠い世界の話だと思っていました。それが、ロシアの製油所から、この国の給油の列を通って、私が乗っている車にまで届いています。

スーパーの店内、コーラの箱が積まれている

お土産を買いにスーパーへ寄りました。
入口近くにコーラの箱が山積みになっていて、その向こうが食器売り場です。日用品と食品と雑貨が同じフロアに詰まっています。

スーパーの食品棚、コーヒーや瓶詰めが並ぶ

棚を端から見ていきます。コーヒー、瓶詰め、缶詰。ロシア語の商品と韓国の商品が隣り合っています。
何を買ったかは、正直あまり覚えていません。

マンズシル僧院跡

針葉樹に囲まれた谷の風景

最後に、古い僧院を見に行きました。ウランバートル郊外のマンズシル僧院跡です。
車を降りると、それまでの草原とは景色が違います。斜面に針葉樹が生えていて、その間を丸い岩が転がっています。
そういえば、木がこれだけまとまって生えているのを見たのは、この1週間で初めてかもしれません。ゴビも草原も、地面にあるのは草か砂か岩だけでした。
標高が上がった分、空気も少し違う感じがします。

崩れた土壁だけが残る僧院跡

残っているのは壁だけです。
土を固めた分厚い壁が、屋根を失ったまま斜面に並んでいます。上には草が生えていて、遠目には岩のようにも見えます。かつてここに何百人もの僧がいたそうです。

ドローンから見た僧院跡と、復元された建物

見下ろすと、規模がよく分かります。
中央に赤い屋根の建物が一つ復元されていて、それを囲むように、基礎と壁の残骸が斜面いっぱいに散らばっています。四角い区画がいくつも並んでいて、跡地というより設計図のようです。

空港で、最後まで羊です

路上の露店、おもちゃと菓子とモデルガン

帰り道、路肩に露店が出ています。
机の上におもちゃ、チョコレート、キャラクターの雑貨。その隣の箱には、なぜかモデルガンが整然と並んでいます。この組み合わせが売れ筋なのでしょうか。

窓の外に滑走路が見えるレストラン店内

チンギスハーン国際空港に着きました。出発まで時間があるので、上の階のレストランに入ります。

ハンバーガーとフライドポテト

1週間、羊を食べ続けてきました。さすがにもう十分です。
最後くらい牛が食べたい。そう思ってハンバーガーを頼みました。
出てきたのがこれです。ゴマのバンズにチーズ、レタス、トマト。フライドポテトとケチャップ。見た目は完全にハンバーガーです。
かじった瞬間に分かりました。パティが羊肉です。この国に、羊から逃げる方法はありません。

空港ターミナルの通路と土産物店

搭乗までターミナルを歩きます。木を組んだ天井がゆるやかなアーチを描いていて、両側にゴビのカシミヤの店と土産物屋が並んでいます。夜の便なので、人はまばらです。
モンゴルというのは、つまり羊です。そこは一貫しています。

7日目を終えて

  • 最終日にしてようやく自転車に乗れました。管理人さんの私物で、整備は怪しかったですが十分走れました
  • 草原を自転車で走るのは面白いです。ただし地面は羊と牛の糞だらけなので、靴は捨ててもいいものを履くべきでした
  • 遊牧民の羊の追い込みに少し参加しました。友人はグッドサインをもらいました
  • タヒ(野生馬)はダート往復4時間と聞いて断念しました。次に来ることがあれば、ここを1日空けておきたいです
  • 代わりに登った丘からは、蛇行する川と平原が一望できました。丘一つでも登る価値はあります
  • マンズシル僧院跡は壁だけが残っています。ドローンで上から見ると、その規模がよく分かります
  • 空港で頼んだハンバーガーは羊でした

7日間で、ゴビ砂漠から草原まで走りました。
牛の糞で汚れたスニーカーは、ゲルに戻ってから洗いました。使い終わった歯ブラシで、溝の一つずつまで丁寧に。


この旅の記事シリーズ

モンゴル 8日間の旅(2026年8月9日〜16日)